私と記憶とロボットと

 

 

その人のクセ、特徴、身のこなしをすべて注意深く観察して、巧妙になりすましても、他人に成り代わることはできないんじゃないか?

私達は感覚的に、私には私にしかないナニか(心)があるはずだ、と考える。

 

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』は、人工知能の少女の視点で語られる物語。

 

持ち主、親友のジョジーは病弱で、娘を失いたくない母親は科学者カパルディに依頼して「ジョジーを継続する」計画をすすめている。悩みながらね。

クララが選ばれたのは、ジョジーがもし死んでしまってもジョジーを完コピして「継続する」ことができるんじゃないか、という淡い期待もあったから。

 

クララの純粋な子どもらしい(ロボットだから客観的でもある)視点が、すごくおもしろいの。かわいらしいというか、愛おしく感じる。

 

カパルディさんは、継続できないような特別なものはジョジーの中にないと考えていました。探しに探したが、そういうものは見つからなかった―そう母親に言いました。

でも、カパルディさんは探す場所を間違えたのだと思います。

特別な何かはあります。ただ、それはジョジーの中ではなく、ジョジー愛する人々の中にありました

 

クララとお日さま (ハヤカワepi文庫)

 

その人をその人たらしめるものは、その人の中にはない・・・と言ったら言い過ぎかな?でも、そういうことだよね。

 

私の『ドーナツ理論』は、自分の中心空洞説だけど、もっと範囲を大きくして周囲の人との関係性の規模に視点を広げれば、それも納得。

 

自分らしさは、ホロスコープの中にはない。

(描かれていない)

 

月と太陽は、新月・満月でいちいち注目されるように、つねにぐるぐると更新されている。いや、他の星もそうだけどさ、月の「生(はじまり)と死(おわり)」の表現は特にわかりやすい。

 

「私らしさ」は常に更新され続けてる、ってこと。

新月で始まって、満月で達成する。そしてまた欠けていって、トキが巡る。

 

自分らしさってのは、自分をどう表現するのかってこと。どんな物語の「過程」として今の状況とそこにいる主人公の自分を見つめるかってこと。

 

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「本当の自分」探しが危ういのは、気に食わない自分を切り殺して、自分らしさを純化することが「本当の自分」になることだと勘違いする人がいること。

 

(中略)

 

自分と、自分以外の誰か。その時その瞬間の時、場所、いろんなものや出来事の配置。その何本もの絡み合った糸が、糸くずになって、毛玉になって、現実になってる。

 

これが自分だ!と思っていたことだって、見方によっちゃ糸くずの集まりでしかないわけ。でも、誇り高き毛玉さ。この糸は好きだけど、これはイヤ、って仕分けすることもできるけど・・・

 

選り分けて捨てた糸くずこそが、自分らしさをつくってくれていたりする。切って捨てた自分が、自分の影が、自分の陰影(立体感)を形作る。絵を描くと分かりやすいけど、影を入れると絵にグンと奥行きが出るでしょ。

 

(中略)

 

ワレワレは胎児の時、指と指の間に水かきみたいに皮膚があった。それが切り捨てられて、「指のカタチ」ができた。それが「ある」ままだったら、いまの指のカタチは「なかった」。

 

もひとつ他の例もあげるなら、きっとこれは若い子知らんだろうけど、むかーし夏祭りとか縁日の屋台であった出し物のさ、「型抜き」!お菓子の板(だったっけ?)にさ、針とか爪楊枝でぷつぷつ穴をあけて、絵をくりぬくんだ。(ムズカシイんだなーこれが!)

型抜きの板にはあらかじめ図があるわけだけど、私たちの人生はこんなにハッキリ「型」を指定されていないだろうね。結構自由にぷつぷつ針を刺していけると思うんだ。

 

そんで、抜き取った「穴」が、なにかしらの「カタチ」になるわけ。最初からカタチを意識して針を刺してないのがおもしろいところ。結果的に繋がって、穴になる。それが、「私らしさ」っていう形になる

 

「私らしさ」のドーナツ理論ですな。

 

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関係性の中に、「自分」がたちあらわれる・・・といえば、構造主義的な視点だね!

「自分」ってのは、ラベルじゃなくて、「輪郭」ってハナシ。

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思い出したことざざっと掘り起こしたけど・・・構造主義的な「他者との境界線からくりぬいた『輪郭』が、自分らしさ」って部分は、クララの言う『特別な何か』はちょっと別のハナシだった!

 

 

記憶のハナシがつながってくるかな。

 

記憶は実態のあるブツじゃなくて関係性の中に浮かび上がる光

 

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「記憶」に焦点を絞って言えば、これは「過去」のデータベースなんですな。

なんなら、心は記憶をもとに練りだされた即興芸術ともいえる。

 

心の秘密は、その隠された深みにあるのではない。

過去という主題のもとで現在という即興曲を奏でる驚くべき創作能力にこそ秘密がある。

 

 

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たいてい人が語る「性格」ってやつは、記憶を参照した過去のデータでしかない。

 

たとえば「私の性格」というテーマで脳内サーチをすると・・・

過去の出来事と、それに対する解釈と、リアクションがずらーっと出てくるわけ。その中からどれをピックアップするのか、一筋のストーリーラインでくっつけていく。


「私の性格」ってタイトルをつけた一本の釣り糸で、同じ色の魚だけピックアップしてるの。でも自分では大きな海に釣り糸たらしてるんだから、これが全ての魚だと思う。

 

これは占星術の「月」の働き。

無意識のデータベース参照機能。

なんなら、釣り糸をたらしてることすら気付いてないことが多い。

 

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そういえば、岡潔せんせの「情緒」のハナシにも、「過去」についてふれていたぞ!

過去なしに出し抜けに存在する人というものはない。その人はその人の過去のことである。その過去のエキスが情緒である。だから情緒の総和がその人である。

 

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さてもうひとつ、記憶の保管場所について私の勝手な仮説。

いい表現が思いつかないから、タマシイの記憶ということにしておく。

 

言葉の記憶は個人個人のデータとして保管されるけど、身体の記憶はもうちょっと長いスパンで、時間軸も含めた記憶でしょ。

 

空間 < 空間を含めた時間 < 空間も時間を含めた世界

言葉の記憶  身体の記憶  タマシイの記憶

 

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こんなことも書いてたっけ。

 

 

「記憶」に関して、 『都市と野生の思考』で紹介されていた、E・M・フォスターという作家の言葉がおもしろかった。

 

都市と野生の思考 (インターナショナル新書)
 

 「記憶」というものは若い間はクロノジー(時系列にまとめられたもの)で、中年以降はパースペクティブなもの(遠近法)になる。そして老後はピクチャー、一枚の絵にまとめられ、死んだら順序も絵もバラバラに分散してしまうんだ、って。

 

記憶力は衰える、ってのがワレワレの「常識」なわけだけど、いやいや、「記憶」の様相というかあり方が変わってるだけなんだ、って思えばそれはそれでステキよね。

 

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↑死後の、順序も絵もバラバラになる時間っての、12ハウス的だね。海王星の世界。それを体現する魚座のサイン。

 

 

おじいちゃんのふうせん(記憶)はとんでいっちゃうんだけど・・・

誰かに手渡されたふうせんは、なくなったわけじゃない。

 

 

ぐぐんと最初に戻ってロボットのハナシ。

 

私これマンガ喫茶でボロボロ泣きながら読んでいた(笑)まだ最終巻だけ残してる・・・( ゚Д゚) ねえ、ニンゲンってなに?ロボットってなに?違いはなに?ワレワレはどういう未来に進むか?

 

その問いが投げかけられるのは、科学に携わる人だけじゃない。私たちの「世界との向き合い方=価値観」そして「視点」。もちろん漫画だから、そんな抽象的に考えなくてもただただ楽しめる。ドキドキできるし、じわーっとかんどうするし、いとおしい気持ちでいっぱいになる。

 

絵がすげぇな。さわやかな細いシンプルな線なんだけど、表情のなかにびみょ~~な感情が書き込まれてるんだろうな・・・とか、ニンゲンのCRAZYな部分、すごく残酷で、コワイ表情。特に無表情のコワさと不気味さが、スゴイ。

あと、子どもを見つめた時ににじみ出る、あったかい気持ちの目。細める感じ。あの表情もスゴイ。

 

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また読みたい!!!!!

NETFLIXでアニメ化されたって本当?契約すべきか・・・

 

 

これも、すさまじく心揺さぶる物語。


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逆パターンはどうだろう。

自分がロボットに改造されたら?


www.youtube.com

 

ニンゲンだったら「意識」があるから「私は私」ってつながり(同一性)を保ってるって思うでしょ?じゃあ、その意識(過去の記憶、思考パターン)もダウンロードされたデータだったとしたら?

 

私は、簡単に私を諦められるかなぁ。

 

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そういうわけで、時間切れ!

バスがきちゃう‐‐‐‐!!